永遠の約束(深青編-序章-)
「一条さん、友達に見送られながら笑顔で帰っていったよ」
「そう」
帰るために深青と優奈は鞄を取りに教室へと向う廊下を歩いていた。
空は日が落ち始め、廊下は夕焼け色に染まっていた。
にこりと笑みを浮かべる深青に優奈も自然に笑みを浮かべる。
「よかったの? 彼女に会わなくて。一条さんは会いたそうにしてたけど」
「うん。いいの。彼女は自分の意思で新しい道を進もうと決めたのよ。私にはもう何も言うことはない」
「そっか。………でも、まさか学校を辞めちゃうなんてね」
優奈はもったいなさそうに呟く。
確かに、鈴白学園は偏差値が高い進学校として有名だ。
倍率も他校に比べると高いほうだった。
現に、優奈も合格発表の日は落ちて泣いている子を何人も見た。
それを思うとやはりもったいなく思う。
おそらく、香織は湯川の傍に居たいがために相当がんばったのだろうから。
だが、それなら湯川とのことが残っている学校にいるのは香織にとってはつらかったのかもしれない。
深青の言うとおり、新しく歩もうとしている彼女につらい思いしか残っていないこの学校は足かせのようになるのだろう。
おそらくは、彼女の中で事件のこと、自分のしたことはずっと胸の中で残り続ける。
だからこそ、前を行くためには後ろを振り向いてはいけないのだ。
そう深青は言いたかったのではないのか。
だから、事件と深いつながりを持つ自分はあえて、彼女に会わなかったと優奈は思った。
深青は何も言わない。
長い付き合いの中で培ってきたものだ。
深青はずっと先を見ている。
いつも、優奈は後でそのことに気づくのだ。