たったひとつの愛と笑顔
と、硬く握手をした。



美沙は後衛だった。


後衛というのは、二人でダブルスするときに、主に後ろを守る人なのだ。


美沙は、小学3年生のときからテニスをやっていたらしい。

中学校は軟式といって、柔らかいボールを使うテニスだったが、美沙の通っていたテニスクラブは硬式という硬いボールを使うテニスだった。



軟式と硬式では、バックハンドのフォームもまるっきり違う。


軟式のバックハンドは難しい。


きっとみんなに嫌われているだろう。


しかし、美沙はすぐになおしてしまった。


美沙は2年生よりもうまい。


人並みはずれたフォームと、美沙が打つ球の速度はハンパではないほどのものだった。


そんな美沙とペア・・・。


明日香は少し不安になった。


明日香が美沙の足を引っ張らないだろうか。



しかし、美沙は優しかった。


練習試合の時にミスをした明日香を、美沙は「ドンマイ」「次、頑張ろう」と優しく声をかけてくれた。


ときには、7分の1の確率で入るサーブを「いいよ。どんどんやって。」といってくれたりもした。


そして、とうとう大会の日だ。


「お母さん。おなかが痛いよぉぉ。」


緊張して上がってしまったのか、明日香は急な腹痛に襲われる。


しかし、ここで休んではいけない。


ここで休めば、美沙に迷惑をかけてしまう。


それは、絶対にダメだ。


明日香は立ち上がった。


そして、蛍の車に乗せてもらい、大会のあるテニスコートへ向かう。


愛理も一緒だ。


行く途中で、ローソンによってもらった。


おなかが痛くなったのである。


早くしなければ、大会が始めってしまう。


美沙に、愛理に蛍にみんなに迷惑をかけてしまうことになる。


明日香は急いだ。


しかし、おなかは治らない。
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