この手、あの手。


土曜日――。


「あれ? 実乃梨オシャレしてる」

家を出ると、体操している聖治がいた。


「田畑さん達とカラオケだよ」

昨日田畑さんに誘われたが、無理矢理行くことになった。


「俺も実乃梨の歌聞きたかったわー」

聖治は泣くフリをした。


「私が音痴なの知ってるでしょバカ。笑われるから聖治の前では歌わない」

「俺は笑わないよ、絶対」

聖治の優しさ。

音痴に慣れたから笑わないだけ。

上手いとか下手とかけして言わず、可愛いしか言わない。

手拍子をしながらずっと笑顔で私を見る聖治の行動が、私は嬉しい。


けど、今回は田畑さん達と。

私の性格とは正反対で、明るくて元気でさばさばしてる人達ばかり。

音痴を笑われるかもしれない。

だから本当は行きたくないけど、行かなきゃ仲間外れにされる。

1人で教室にいなくちゃいけなくなる。


そんなの嫌だ。



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