この手、あの手。
それから私は着替えて顔だけ男の家を出た。
「送ろうか?」
「遠慮しとく。人に見られたら嫌だから」
「ああそう」
顔だけ男が送ると言ってくれたけど、私は断った。
田畑さんとかに万が一見つかったら大変だもんね。
「あの……」
「ん?」
「今日は有難う、その、おかげで元気出た」
「お前にお礼言われるなんて、変な感じ」
顔だけ男はケラケラ笑った。
「もう帰る! ばいばい!」
私は頬を膨らませて回れ右した。
「つーちゃん」
ドキッ。
全身がその一言に反応し、動きを止めた。
「つーちゃんっていじめがいがあって、面白いな」
「……ドS」
「うん、ドSだけど?」
……完敗だ。
「こ、今度こそ止まらないから! ばいばい!」
私は早歩きでその場を去った。
背後から「つーちゃんばいばい」って聞こえたけど無視。
振り向いたらまた負ける。
誰にも言ったことないけど、私はドSが大好き。
顔だけ男に完全に惚れた。
これからは顔だけ男なんて呼ぶの止めよう。