この手、あの手。


「ごめんごめん、次からはちゃんと聞くって」

私は聖治の手を払った。


「俺のことが頭から離れなかったんだよな、つーちゃん」

「なっ!!」


そんなわけないじゃん!
って言うつもりだった。

けど事実でなにも言い返せない。

鶴賀君のことを考えてた。


「何、つーちゃん俺のこと好きになった?」

私の顔は真っ赤になっているだろう。


「え、まじで?」

さっきまでニヤニヤしながら話していた鶴賀君は、急に真剣な表情になった。


「実乃梨……、本当なのか?」

聖治も顔をしかめながら聞いてきた。


「ち、違う! 鶴賀君うざいから、何か仕返ししたくてそれを考えてたの! 第一、鶴賀君のこと大嫌いだし!」

「なんだ、そっか」

鶴賀君は苦笑いしながら言った。


仕返しは本当のことだけど、気持ちは嘘ついちゃった……。

だって今告白したってフラれるに決まってる。


でも気がつかなかった。

この時鶴賀君が悲しい目をしてることに……。


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