この手、あの手。


「実乃梨どうした!?」

え……?


聖治は、泉谷さんから貰ったタオルで私の顔を拭いてきた。


「泣くな!」

泣いてる……?

どうして……?


「べ…つに……泣きたくて泣いてるわけじゃない!」

涙は出てくる一方だった。


「汗臭いかもだけど、このタオル使え。俺は実乃梨のタオル使うから」

「有難う聖治………好き」

「え……、うん! 俺も好き!」

聖治は着替えるからと、更衣室へ行ってしまった。


何で好きって言ってしまったの?

鶴賀君と聖治の好きは違う。

なのに気持ちが分からない。

泉谷さんに取られるのがこんなにも嫌だなんて……。



ううん、これはきっと、お父さんが娘を嫁にやる時の気持ちだ。

悲しいから、泣いたんだ。


だって私が好きなのは鶴賀君だもん。


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