龍の系譜~龍に愛された少女~
静香は口元まで持ち上げたティーカップをソーサーに戻した。
「え?お願いって…」
今日桜人が訪ねてきたのは、3人で夕食を食べるためだけだと思っていた。
ちょうど今夜、仕事でウチの両親が留守だから、みんなで協力して夕食作ればいいんじゃないかって…
「ウチの神社の花祭なんだけど…今年日曜日にあたっちゃって、忙しくなりそうなんだ」
桜人の家は神社で、昔は仏様も祭ってたらしい。それで毎年4月に花祭を神社でやっているのだ。
夏祭りは必ず兄と桜人のいる月夜見(ツクヨミ)神社へ一緒に遊びに行った。
「うん、静香ちゃんに巫女のバイトをやってもらえると助かるんだ」
「巫女って…私でいいんですか?」
「もちろん静香ちゃんなら安心して頼めるよ」
静香は赤い頬をうつむいて隠した。
「当日は社務所の中の手伝いだけでいいから」
緋色の袴姿を一瞬想像してみた。
――似合うのかなぁ?私に。
「静香ちゃんの巫女姿、似合うだろうなぁ…静香ちゃんは美人だし凛としたところがあるしね」
「ええ~っ!そんなことないですよぉ!!桜人さんたら~~」
ごまかしようのないくらい赤くなる静香。
「がさつな巫女さんになりそうだな」
話に割り込んだ声の主は衛だった。
西高の学生服姿で、竹刀の入った包みを担いでいる。衛は剣道部の主将なのだ。
「ひどっ!がさつってどーゆー意味!」
「そーゆーとこが!」
「兄さんのいじわるっ!」
静香はむくれた。
「お帰り、クラブ終わったんだ」
桜人の方はいつもの笑顔。
「ああ、新人戦やら、次期主将の人選やらで遅くなった」
「そういう時期かぁ~」
自分も3年なのに、桜人は他人事みたいにのんびりと言う。
「桜人先輩はクラブどうするんですか?」