龍の系譜~龍に愛された少女~
桜人は静香と同じ弓道部員だった。桜人が引退してしまったら、弓道部で会う機会がかなり減ってしまう。
「『先輩』はやめようよ、いつものさん付けでいいから。僕は平部員で気を使わないし、なるたけ長く部に顔出したいんだけどね、まぁのんびりいくよ」
「のん気な奴だなぁ~まぁそれが桜らしくていいんだけど。ところでメシ作るんだろ?」
「大変!準備しなくちゃ!!」
慌てて静香が立ち上がった。
「おいおい…」
腹ペコの衛はため息をつき、静香と桜人はキッチンに駆け出して行った。
3人はそれぞれ色違いのMyエプロン姿で、料理の下ごしらえをしていた。
カレールー担当の衛と桜人、サラダ担当の静香がそれぞれ作業をやっていた。衛は猛スピードでジャガイモを切り、桜人は丁寧に玉ねぎをきざんでいる。
今夜のメニューは玄米カレー。ご飯は買い物に出る前に炊飯器で予約済み、静香はサラダに入れるアボガドを切るのに手こずっていた。
「痛っ!」
ぬるぬる滑るアボガドで手が滑って、包丁で指を切ってしまった。傷は深くないが、血が滲んできた。
「大丈夫!?血が出てるじゃないか」
桜人が傷を覗き込む。
「大したことないですから」
「絆創膏くらいは貼らなきゃ」
桜人は静香の左手をつかむとシンクの水道でアボガドのぬめりと血を洗い流し、絆創膏を貼った。
その間、桜人に手をつかまれたままの静香はうつむいて赤くなっているしかなかった。
「ありがとう、桜人さん」
「どういたしまして、傷が浅くてよかったね」
首を傾げて微笑む桜人。
「だからがさつだってゆーの」
次はにんじんを猛スピードで切りながら、衛が言った。
「妹が怪我したってゆーのに、もう!」
「人助けは桜の役目。こいつは優しいからな」
そんな軽口を言う衛だが、桜人のピンチには体を張って助けるのだ。
男友達同士のそういうところが、女の静香にはうらやましい。
「仲がいいね~僕も兄弟欲しかったな」
「妹なんて小ウルサイだけだぞ?」
「私のどこが小ウルサイのよぉ~」
「まぁまぁ、食事の準備しようよ~」
もうしばらく彼らは夕食にありつけそうになかった。