始末屋 妖幻堂
「もぅ。何を妬いてんのさ。言っとくけどね、あたしは佐吉なんかに、肌は許してないよ。夜這いにゃ来られたけどね、大声出して、追い返してやった」

「ほぅ」

 少し意外に思い、千之助は目の前の冴をまじまじと見た。
 自ら千之助に夜這いをかけた冴でも、一応好みの男にしか、そういうことはしないらしい。
 誰にでもこういうことをしてるわけじゃないと言っていたのは、本当だったようだ。

「佐吉ってのぁ、面ぁ良いんだろ? そんな奴に、夜這いかけられたのかい。よっぽどヤな奴だったのかね。お冴さんの好みではないってことか」

「そうさ。あたしはもっと、しっかりした人が好きなのさ。佐吉なんかに参るのは、芯の弱い奴だけさ。あんな奴の軽口なんざ、あたしから言わせれば、世迷い言以外の何ものでもないさね」

 ふふん、と自慢げに鼻を鳴らし、冴はぎゅっと千之助に抱きついた。

「あたしは千さんみたいな人が良い」

「俺っちなんざ、頼りねぇだろ。面だって特に良いわけでもねぇし」

「そんなことないよ。都でお店やってるんだろ? 千さん、若いのに、都の店を切り盛りできるなんて、凄いじゃないか」

「そんな大層なこっちゃねぇ。あんま買いかぶってちゃ、がっかりするぜ」

 ぐい、と冴を離し、千之助は村のほうへ歩き出した。
 冴が、慌てて摘んだ山菜を抱え、後を追う。

 しばらく歩いて、冴は、くい、と千之助の袖を引っ張った。
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