始末屋 妖幻堂
「ちょいと千さん。佐吉の家に行く気?」

 掘っ立て小屋に近づく千之助を止めるように、冴はさらに強く袖を引いて、彼の足を止めた。

 千之助は、ちょっと考えた。
 ちょっと先走りすぎか。
 そもそも小菊のことを佐吉に聞こうにも、小菊の本名がわからない。

「ねぇ千さん。そういや何で千さんは佐吉のこと、知ってるのさ」

 初めて冴が、ちょっと警戒したような顔になった。

「もしかして千さん、あいつの仲間だったりするのかい?」

「仲間?」

 きょとんとした表情が、いかにもおかしかったのだろう。
 冴はいきなり吹き出すと、ぽんと千之助の肩を叩いて笑った。

「あはははっ。ごめんごめん。そんなことないよね。大体千さんが、そう荒事に慣れてるとも思えないもんね」

 ひとしきり笑った後、冴は心底安心したように、千之助に寄り添って、腕を組んだ。

「荒事って? 佐吉ってのぁ、単なる女ったらしじゃなかったんかい?」

「まぁね。でも周りはもっとたちが悪いよ。博徒っての? そんな感じ」

「博徒?」

 ぎょっとして立ち止まった千之助に、冴はひそ、と声を潜めた。
 結構掘っ立て小屋に近づいている。
 大声で話す内容でもない。
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