始末屋 妖幻堂
 ばちっと炎の爆ぜる音に、千之助は飛び起きた。
 見ると、起こした上体は素っ裸である。

 部屋に広がる異様な妖気に振り返れば、己の横に横たわる里の上に、大きな狐が覆い被さっていた。
 影のように真っ黒なその狐は、今にも里の喉笛を噛み千切らんばかりに、鋭い牙を剥き出している。

「く、九郎助か。・・・・・・俺っちとしたことが、下手打ったもんだ」

 大きく乱れた浴衣を羽織ると、千之助はばつが悪そうに頭を掻いた。

『旦那、油断なされるな。この女子、ただ者ではありませぬぞ』

 里を押さえ込んだまま、九郎助狐は言った。
 一つ頷き、千之助は行灯の火に何かを投入する。
 ふわっと香の香りが部屋に満ちた。

「有り難うよ、九郎助の旦那。助かったぜ」

『どうであろうな。わしが来なければ、良い思いができたやもしれぬぞ?』

 言いながら、九郎助狐は身を起こす。
 香の作用で、里が目覚める気配はない。
 とりあえず千之助は、裸体の里に浴衣を着せた。

「やれやれ、何て女だ。まぁ・・・・・・確かに冴よりは、こっちも良い思いができたがな」

『ほ。旦那にしては珍しい。それはそうと、これが玉藻に知れたらどうなることやら』

「・・・・・・確かに」

 うむむ、と唸りながら、千之助はちらりと里を見た。
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