始末屋 妖幻堂
 佐吉の家の近くで、千之助は一旦足を止め、辺りを窺った。

 まだ夜は明けていない。
 しん、と静まり返っているが、こういう粗末な家は、立派な屋敷より外の音を拾うものだ。
 慎重に、掘っ立て小屋に近づく。

---? 人の気配がしねぇな---

 詳しくは聞いていないが、家族はいるはずだ。
 小菊も、誰ぞの次男坊とか言っていたと狐姫に聞いた。
 ということは、少なくとも父親と兄がいることになる。

 だが今、掘っ立て小屋は静まり返り、人はおろか、生き物の気配自体がない。

 千之助は家に近づき、引き戸に手をかけた。
 少し力を入れただけで、戸は開いた。

 細く開き、中を覗き込む。
 闇ばかりの室内を一瞬見ただけで、千之助は戸を引き開けた。

「・・・・・・どういうこった」

 思わず呟きが漏れる。
 目の前には、狭い土間が僅かばかりあり、その奥には四畳ほどの板の間があるだけだ。

 そこに、二つの影が転がっていた。

 千之助は家の中に入り、その影に近づいた。
 年老いた老人と、青年の死体。
 どちらも、枯れ木のようにかさかさで、肌も茶褐色になっている。
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