始末屋 妖幻堂
 初め三人だった影のうち、一人は乱闘直後に家を飛び出した。
 残ったのが、この二人。

 千之助は、若いほうの死体を丹念に調べる。
 難を逃れた一人は佐吉だと思うが、それはあくまで勘である。
 確信に近い勘ではあるが、完全にそうとは言い切れないのだ。

 何故なら。

---佐吉は確か、勘当されてたはずだ。何でそんな奴が、家にいるんだ---

 どこぞで野垂れ死んだのなら、死体がここに運ばれてくることもあろう。
 とすると、この死体が佐吉という可能性もある。

---けど・・・・・・やっぱ違うよなぁ。こいつぁ、きっと兄貴のほうだ---

 死体の手を調べながら、千之助は一つ頷く。
 死体の手は、干涸らびているとはいえ、かなり使い込まれた感じだ。
 長年農作業をしてきた者の手である。

---佐吉は遊び人の放蕩息子だ。こんな手になるまで、真面目に野良作業などしてねぇだろう---

 やはり、これは佐吉ではない。
 ということは・・・・・・。

---野郎、もしかして、家族を博徒に殺させたのか?---

 ありがちな筋書きとしては、借金でも背負い込んだ佐吉が家族に金の無心に来、そこに借金取りである博徒らが乗り込んだといったところか。

---しっかし・・・・・・。いくら勘当されたとはいえ、家族を置き去りに、とっとと自分だけ逃げ出すかねぇ。そんなことすりゃ、家族に累が及ぶってことぐれぇわかりそうなもんだ---

 現に父親は殺されたのだ。
 もう一度小屋の中を見渡し、一つ息をつくと、千之助は立ち上がってその場を離れた。
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