始末屋 妖幻堂
第十三章
 廓の朝は遅い。
 まだ夜が明けて間もない時刻など、深夜のように静まり返っている。

 その静かな廊下を、呶々女はちょろちょろと走り回っていた。
 呶々女が走るたびに、床はぴかぴかに磨き上げられていく。

「おんや山吹(やまぶき)。朝っぱらから精が出るねぇ」

 かけられた声に振り向けば、遣り手のおさんが立っている。
 呶々女はくるりと身体ごと向き直り、ぺこりと頭を下げた。

「おさん婆。おはようございます」

「あんたは小さいのに、よぅ働くねぇ。でもねぇ、あんましそういう水仕事をしたら、肌が荒れちまうよ。ま、まだ若いから良いけど、決まった姐さん付きになったら、控えるこったね」

「はい」

 伯狸楼に入った呶々女は、『山吹』という禿名をもらって働き出した。
 千之助が幼くしてくれたこともあり、まだもっぱら下働きだ。

 お陰で仕事をしながらいろいろな部屋に入り込める。
 いろいろな部屋の掃除をしつつ、楼内をくまなく回るお陰で、楼内での呶々女の評判は良くなり、呶々女は楼内に詳しくなる。
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