始末屋 妖幻堂
「あんたも、あんまりあちきらに構わないほうが良いよ。あんまり裏に詳しくなっちゃ、裏要員にされちまう」

 そう言いながら、芙蓉は呶々女を追い出すように、しっしっと手を振る。
 が、その手も痛むようで、すぐに顔をしかめて手を引っ込めた。
 呶々女は素早くその手を取ると、そっと布団の中に入れてやりながら口を開いた。

「そんなこと、良いんですよ。そもそも裏って、何ですか?」

 芙蓉から手拭いを取り、水につけながら、呶々女はすっとぼける。
 芙蓉はそんな呶々女をじっと見つめ、小さく首を振った。

「知らないほうが良いよ・・・・・・。下手に知っちまったら、あちきみたいな目に遭うよ。あちきだけじゃない、この部屋の遊女は皆、こんな傷、日常茶飯事さ」

「そうだよ。あんたは特に、どこにも傷はないだろ? 不器量なわけでもない。大人しくしてりゃ、裏に行かされることはないだろう」

 芙蓉の横に寝ていた遊女が、屏風から顔を覗かせて口を挟んだ。
 気づけば、部屋にいる皆が起きて、こちらを見ている。

「芙蓉、大丈夫かい?」

 屏風を押しやり、皆が集まってくる。

「大丈夫だよ。あちきよりも、小菫(こすみれ)のほうが、きつかったんじゃないかえ」

 呶々女の手を借り、芙蓉が上体を起こして言った。
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