始末屋 妖幻堂
「慣れっこさね。・・・・・・あちきらは、こんな目に遭っても、まだマシなんだよ。あの子を見てて、つくづくそう思うよ」

 小菫という遊女は、芙蓉の肩に着物をかけて、しみじみと言う。
 呶々女は芙蓉の身体を冷やしながら、聞き耳を立てた。

「ああ・・・・・・そうだね。でもあの子、逃げ出したそうじゃないか」

 小菊のことだ、と気づき、呶々女は顔を上げた。

「逃げ出した? どうして? そんなこと、許されるのですか?」

 呶々女の問いに、遊女たちは声を潜める。

「あんたは自分から、ここに来たんだったね。大方、店構えが立派だから、ここにしたんだろ? けどねぇ、ここは地獄だよ・・・・・・」

 一人が言った後、遊女らは顔を見合わせて、お互いの顔色を窺った。
 言うべきか言わざるべきか、迷っているようだ。

「・・・・・・良いかい、ここで聞いたことは、下手に漏らすんじゃないよ。遣り手なんかに知られた日にゃあ、あんたも即裏行きだ」

「裏は非道な客ばかり。あんたもまだまだ幼いけど、幼いからこそ、そういうのを狙う客がいるかもしれない」

 呶々女はじっと、遊女らを見つめた。
 そもそもヒトでない呶々女には、怖いものなどない。
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