始末屋 妖幻堂
第十四章
「店のこともあります故、明日にでもお暇しようと思います」

 朝餉の席で切り出した千之助に、長は少し驚いた顔をした。

「そんなにお急ぎにならなくても。もう少しゆるりとされたほうが、ここいらのこともわかりましょう。追いはぎも、まだそう遠くまで行っていないやもしれませぬし」

「いえ、何もできないまま、長々ご厄介になるわけにも」

 お礼もできず、申し訳ないが、と頭を下げる千之助に、長は悲しげな表情になる。
 おそらく冴の話が出ないからだろう。

 そう日も経っていないので仕方ないのだが、上手くいけば、冴も共に都に上れるかもしれぬという期待があったのだ。
 冴も、思い詰めたような目で千之助を見ている。

 朝餉を終えた千之助は、いつものように散歩に出た。
 今日目指すのは、小菊と佐吉の逢い引きの場所、樫の大木。

 山間の村なので、辺りは一面木々が生い茂っている。
 『樫の木』というだけでは見つからないかも、と思っていたが、意外にそれは、あっさりと見つかった。
 村から外れたところに、少しだけ開けたところがあり、その真ん中にどかんと一本、大きな樫の木がそびえていたのだ。
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