始末屋 妖幻堂
「ねぇ千さん。お願いだよ。あたしも一緒に連れて帰っておくれよ」

 冴は泣きそうな顔で、千之助に訴える。

---こういう必死なところは可愛いがなぁ---

 決して見目が良くないわけではないのだ。
 日焼けして鄙っぽいのは否めないが、それは村娘なので仕方のないことだ。

 だが、いくら見目良い娘だったとしても、妖幻堂に連れ帰る訳にはいかない。
 あそこに入ることができる人間は、依頼人のみなのだ。
 一時だけの付き合いなのである。

---それに、冴を手土産なんかにしたら、狐姫が恐ろしいぜ。きっと冴なんか、食われちまう---

 それどころか、自分の身も危うい。
 狐姫が本気で怒ったら、千之助だって手を焼くだろう。

「・・・・・・なぁお冴さん。あんたはれっきとした、村長の娘だろ。俺っちなんざ、都に帰れば単なる小さい小間物屋の主人ってだけだぜ。主自ら行商するような、小さい店さね。今の暮らしのほうが、よっぽど良い暮らしだぜ?」

「そんなの、構わないよ! あたしは千さんさえいれば良いんだ」

「お冴さんは、若いからなぁ。一時の感情だけで家を捨てるのは、賛成できねぇな。大体、俺っちが一人モンだとは限らんだろ」

 ぴく、と冴の動きが止まった。
 固まったまま、千之助を凝視する。
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