始末屋 妖幻堂
「お里さん。あんたぁ、羅刹女だな? 上の祠にいたんだろう。羅刹の女は美しいというからな。何だってこっちの世に出てきたんだ」

 ぴく、と里が固まった。
 帯にかけていた手を離し、ゆっくりと立ち上がる。

「・・・・・・あなた、何者?」

 先程までの笑みは消え去り、ちりちりとした殺気を纏いながら、里が言う。
 千之助は乱れた着物を直しながら、もたれていた岩から身を起こした。

「俺っちは、ただの小間物屋さね。いろんなものを扱うから、それなりに器用なだけさ」

 向けられる殺気に気づかないといった風に、千之助は軽く言う。
 だが手は腰の巾着に添えられている。

「ただの小間物屋が、羅刹天を前にして、そのように落ち着いていられるものか。大体お前、祠を見たようだな? どうやってあそこまで行ったのだ。ヒトの足でなぞ、到底行けないところぞ」

「・・・・・・器用なんでね。『いろんなものを作れる』のさ」

 あくまで軽く言いながら、千之助は巾着から剣を取りだした。
 小さな石の剣を、指先でくるくるっと回す。
 里の顔が強張った。

「羅刹天っつっても、調伏される前の悪鬼だぁな。俺っちの前に出たからにゃ、そうそう‘おいた’は許されねぇぜ」
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