始末屋 妖幻堂
---やべっ・・・・・・---

 千之助の顔が青くなる。
 注意して見れば、影はゆらゆらと狐の形を取っているのだ。

 千之助は素早く冴を見た。
 冴は千之助が己の浴衣を脱ぐために起き上がったのだとでも思っているようで、特に周りの変化に気づいた風もない。
 先程の愛撫の余韻を楽しんでいる。

 しかし、最早悠長に香を焚いている暇はない。
 千之助は冴を引っ張って、上体を抱き寄せると、彼女のうなじに手刀を打ち込んだ。
 冴の身体から力が抜けるのとほぼ同時に、火が一際大きく吹き上げた。

「旦さんっっ」

 聞き慣れた声と共に、天井を焦がそうかという火が収まった。
 恐る恐る顔を向けると、そこには眦を吊り上げた狐姫の姿。

 前の炎の影ではない。
 生身の狐姫が、そこに立っている。

「・・・・・・狐姫・・・・・・。お、お前さん、何でこんなところに。小菊を放っぽって大丈夫なのかよ」
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