始末屋 妖幻堂
「旦さん、その娘に情けをかけて、どうする気だったんだい」

 あまりに素直に謝られて、怒りの矛先を見失った狐姫は、ぷい、と顔を逸らしながら聞いた。

 千之助が、こうも素直に謝るのは自分にだけ、ということもわかっているため、悔しいが『己は特別』という嬉しさが勝るのだ。

「んにゃあ、あんまり慕ってくれるからよ。何も礼はできねぇし、抱いて欲しいってんなら応えてやろうかな、と」

「礼って何さ。何かわかったんかい? 単なる一宿一飯の恩だろうがよ」

「一宿一飯の恩でも、恩は恩だぜ」

 へら、と笑う千之助に、再びぎろ、と狐姫は鋭い目を向ける。

「で、でもほれ。実際は抱いてねぇだろ。そもそも俺っちだって、不用意に娘を傷物にするようなことは、するつもりねぇよ」

 慌てて言う千之助は、己の浴衣は合わせが大きく開いているし、後ろに転がる冴は、思いきり裸体を晒した格好だ。
 説得力など、微塵もない。

「とりあえず、お仕置きは帰ってからだよ」

「堪忍しとくれよ。俺っちをよく知るお前さんなら、ヒトの娘に手を付けるようなこと、できるわけないってわかるだろ」
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