始末屋 妖幻堂
「そいで、一体どうしたぃ? ここまで一気に飛んできたってことは、何かあったんかい?」

 千之助に抱かれたまま、彼にもたれるようにしていた狐姫は、ああ、と懐から小さな紙切れを取り出した。

「呶々女からの便りなんだけどさ・・・・・・」

 狐姫から受け取った紙切れを開いた千之助は、思いきり顔をしかめた。
 手の平大の紙切れに、見えないほどの小さな字が、びっしりと書かれている。

 しかも、例の『ミミズののたくった』字だ。
 読む気も失せる。

「ね? 酷いだろ? こんなん、あちきは読めないよ。なのに牙呪丸の奴、呶々女からの文ってだけで、あちきが読むまでしつこいしさ。あいつ、あちきがこの汚い字を読めないのは、あちきの技量が足りないからだとか抜かすんだよっ」

 きゃんきゃんと訴える狐姫の横で、千之助は紙に顔を近づけ、渋い顔で字面を追う。

「あんまり鬱陶しいから、九郎様に頼んで旦さんのところに運んでもらったのさ」

 花街に祠を持つ九郎助稲荷は、火にまつわる神だ。
 花街を火事から守っている。
 火を操って空間をねじ曲げることなど、お手の物だ。

 もっとも狐姫が同じ眷属であるからこそ、そういうことにも耐えられるだけで、誰でもそれで移動できるわけではない。
 普通のモノなら、あっという間に灰になってしまう。
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