始末屋 妖幻堂
「この鉄甲で額を打てば、上手くいけば記憶を破壊できるらしい。いつもはちょいと特殊な香を使って、徐々に洗脳するんだがな」

「らしいって、やったことはねぇのかよ。お前さんが、そういった事後処理要員だろ?」

 少々呆れ気味に言う千之助に、小男はじりっと間合いを詰める。
 腰を落とし、今にも飛びかかろうという体勢だ。
 なまじ頭から頭巾を被った小男なので、まるで蛙のようである。

「何度か試したことはあるがなぁ。直接脳みそをいじるのは、やっぱり難しいな。記憶どころか、命を落としちまうんだよなぁ」

 それはそうだろう。
 確かに額は急所だし、あんなもので打たれたら、脳がどうにかなってしまう。
 記憶が飛ぶどころでは済まないだろう。

「乱暴な奴だなぁ。できねぇことにゃ、手を出さねぇって頭はねぇのかい」

「うるせぃ! 思いついたことは、やってみてぇ性質(たち)なんだよ!」

 はた迷惑な男である。
 再び迫る拳を避け、千之助は一瞬背中を見せた小男の襟首を掴んだ。

「だったら、てめぇで試してみろや」

 掴んだ手に思いきり体重を乗せると同時に、己の膝を蹴り上げる。
 千之助の膝が、押さえつけられた小男の額にめり込んだ。

 鉄甲こそ嵌めていないが、上から押さえる力と下から蹴り上げる力が加わり、その上膝も額も、骨に近い。
 緩衝材がない状態なので、衝撃は半端ない。

 一撃で、小男の身体は、ずるりと地に落ちた。
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