始末屋 妖幻堂
 そうこうしているうちに、見慣れた花街が見えてくる。
 千之助は、来るときにも使った竹藪に龍を誘導しようとして、ふと遠くの花街に目を凝らせた。

「・・・・・・何だぁ? そろそろ活気づく頃合いだってのに、例の廓はやけに静かじゃねぇか」

 そろそろ宵闇が迫ってくる時刻だ。
 まだ夕日が西の空を染めているが、花街は見世先の提灯などに灯を入れたり、遊女が外湯に行ったり、いろいろと忙しい時刻のはずだ。

 現に他の廓からは、禿を連れた遊女が出て行ったり、男衆が提灯に灯を入れて回っている。

『小菊がいないから、見世自体が流行ってないのかもよ。弱いけど、雨だし』

 狐姫が、少し顔を出して言う。
 龍を連れているので雨は免れないが、今は狐姫も連れているので、夕日が出るほどの弱い雨だ。
 これが、俗に言う‘狐の嫁入り’である。

「んにゃ、あれから何度か花街に足を運んだが、普通に営業してたぜ。目玉がなくなったのは本当だろうが、今だって、そこまで酷い余興はしてなかったはずだ。別に小菊がいなくなったからって、いきなり廃れるようなことはないだろう」

 小菊一人がいなくなったぐらいで潰れるようなら、それほど有り難いことはない。

「ん? 九郎助がいねぇな・・・・・・」

 花街の端っこの祠を見つめ、千之助は眉を顰めた。
 そして、ぽん、と龍を叩く。

「・・・・・・嫌な予感がする。何かあったな。急いであすこの竹藪に降りてくんな」
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