始末屋 妖幻堂
 千之助の命を受けて、龍はびゅん、とひとっ飛びで竹藪に突っ込んだ。

 龍の腹が地に着くと同時に千之助は飛び降り、小刀を振るって手早く竹で小さな荷車を作る。
 千之助が作ったのは、手の平大のおもちゃの荷車だが、それはぱちんという指の音と共に、普通の荷車に変わった。

「さすがに本物の荷車を作ってる暇はねぇからな。一時のおもちゃで凌ごう。よっこらせ」

 龍のすぐ横に荷車をつけ、佐吉を引き摺り下ろす。
 それから龍をただの木のおもちゃに戻した。

「狐姫。悪ぃがちょいとでかくなって、こいつの上に被さっていてくれ」

 金色の毛並みの狐姫なら、丸まって蹲っていれば、藁の山に見える。
 血を流す怪我人を乗せた荷車を都の中で引けば人目を引こうが、藁の山を積んだ荷車であれば、普通の光景だ。

 が、狐姫は思いきり後ずさった。

『やだよっ。こんな男に覆い被さるなんて』

「おいおい、仕方ないだろ? お前さんだって、あんまりそのままうろうろは、できねぇんだからよ。丁度良いだろうが」

 胡乱な目を向ける千之助にも、狐姫はぎゅっと目を瞑って、ぶんぶんと首を振る。

『やだって! あちきに触れて良いのは、旦さんだけなんだからっ』

「何もべったりくっついておけって言ってんじゃねぇ。それなりにでかくなりゃ、触れずに済むだろうが」

『嫌だよ~~。旦さんは、あちきの肌に他の男が触れても良いってのかい?』
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