始末屋 妖幻堂
 肌・・・・・・といっても毛皮なのだが。
 千之助は、ぼりぼりと頭を掻くと、ひょいと狐姫を抱き上げた。
 そのまま、有無を言わさず佐吉の上に乗せようとする。

『ぎゃーーっ!! 旦さんっ! 何てことするんだいっ!!』

 じたばたと、思いきり狐姫が暴れる。
 龍の上での可愛い暴れ方ではない。
 その必死さから、相当に嫌なのであろうことがよくわかるが。

「堪忍。頼むよ、お前さんにしかできねぇこった。な?」

 狐姫を抱き上げたまま、千之助は苦笑いを浮かべた。
 その笑みに、狐姫は動きを止めると、しょぼんと身体の力を抜く。

「すまねぇ。今回の件が一段落したら、何でも言うこと聞くからよ」

 ぺこりと頭を下げ、千之助は荷車の上に狐姫を置いた。
 狐姫は、ちら、と千之助を見上げると、不承不承、立ち上がって毛を逆立て、前足を伸ばして佐吉の上に覆い被さった。

「有り難うよ」

 藁の山に見せるため、頭は引っ込めている。
 そのため、千之助は軽く狐姫の背を撫でた。

『・・・・・・旦さん、約束、忘れるんじゃないよ?』

 ぼそ、と狐姫が言う。
 少しだけ、『何でも言うことを聞く』と約束したことを後悔したが、今更遅い。

 千之助は、ああ、と返事をし、荷車を引いて小間物屋に急いだ。
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