始末屋 妖幻堂
 小間物屋に近づいた千之助は、すぐに異常に気づいた。
 見た目は店が閉まっているようにしか見えない。

 急ぎ足で店先に荷車をつけた千之助は、一応辺りをざっと見渡した上で、戸を開けた。
 思った通り、店の中は荒れ放題だ。

「・・・・・・旦那」

 薄暗い奥の座敷から、低い声が聞こえた。
 牙呪丸が、柱に貼り付くように座っている。

「牙呪丸、丁度良かった。ちょいと急いで荷物を運び込むのを手伝ってくれ」

 状況を把握する前に、とりあえず店先の佐吉を中に入れてしまいたい。
 だが牙呪丸は、その場を動かない。

「おい、一体どうしてぇ・・・・・・」

 不審に思い、座敷の前まで駆け寄った千之助は、牙呪丸が文字通り柱に貼り付けられているのに気づいた。
 素早く下駄を脱ぎ、牙呪丸の傍に走る。

「九郎助の旦那にやられた」

 牙呪丸の言うとおり、彼の背は九郎助狐の力によって、柱に縛られていた。

「奴らが来たんだな? 九郎助はどうした?」
< 289 / 475 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop