始末屋 妖幻堂
 先の牙呪丸の言い方では、まるでこの店を荒らしたのも九郎助のようだが、そうではない。
 店を荒らしたのは伯狸楼の者。
 おそらく小菊が連れ去られたのだろう。

 狐姫から、小菊を守らないと呶々女の身に危険が及ぶと聞かされていた牙呪丸は、何も考えずに奴らを追おうとしたのだ。
 それを、九郎助が止めたといったところか。

 店にいたのが牙呪丸でなかったら、状況だけでここまでわかることもなかっただろう。

 千之助は素早く九郎助の術を解いて、牙呪丸を解放してやった。

「旦那、小娘が攫われた。呶々女はどうなる」

 やはり牙呪丸の頭には、攫われた小菊のことより、呶々女のことしかない。
 が、術が解かれた時点で飛び出していかないのは、目の前にいるのが千之助だからだ。

 仲間である九郎助にまで柱に縛り付けられていたように、他の者であれば、なりふり構わず飛び出していっただろう。

「呶々女は大丈夫だ。呶々女から何か便りがあったわけでもあるめぇ。あいつがこっち側の者だってのぁ、伯狸楼の奴らには、わからねぇはずだ」

 伯狸楼で呶々女と小菊が会ったとしても、小菊は呶々女を知らない。
 そこから呶々女の素性がばれることもない。
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