始末屋 妖幻堂
 それにしても、と千之助は、改めて店の中を見渡した。
 店先に並んでいた商品は、ことごとく床に散らばり、陳列棚自体が傾いでいる。

 座敷のほうも、様々な張り子の人形やそういったものの材料が、投げ出されたように散らかっている。
 この分では、大方の商品が壊れていそうだ。

『旦さん。とっととあの男、どうにかしちまわないと』

 狐姫の声に、千之助は慌てて立ち上がった。

「おっと、そうだったな。とにかく行動を起こす前に、厄介なモノを片付けておくか」

 牙呪丸に手伝ってもらい、千之助は佐吉を座敷に運び込んだ。
 すぐに指を鳴らして、荷車を元のおもちゃに戻す。
 店の戸を閉め、千之助は佐吉の着物を脱がしにかかった。

「・・・・・・傷は大したこっちゃねぇな。けど、出血がなぁ。ま、血が出すぎた分は、どうしようもねぇけど」

 うつ伏せにした佐吉の、背中の傷を確かめ、千之助は村を出るときに余分に取ってきた薬草を、転がっていた平皿に入れた。

「おい牙呪丸。ちょいと水を汲んできてくんな」

 皿の中の薬草を、棒で潰しながら言う千之助に、牙呪丸はちら、と狐姫を見つつ腰を上げる。
 狐姫に押しつけたいところだが、生憎狐姫は、まだ狐の姿だ。
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