始末屋 妖幻堂
「そいで、九郎助は? 伯狸楼か?」

 荒れ放題の家の中を見回し、千之助は牙呪丸に問うた。
 牙呪丸が頷く。

「小娘を確保すると同時に奴らは逃げ出した。それを追おうとした我に、九郎助の旦那は己が行くから待っておれと言って、出て行ったのだ」

 それでも牙呪丸は聞かなかっただろう。
 何せ、小菊を守りきれなかったら、呶々女の身が危うくなると聞かされていたのだから。

 牙呪丸は基本的に呶々女以外の言うことなど聞かない。
 呶々女以外で言うことを聞くのは、千之助ぐらいなものだ。
 だからこそ、九郎助に力ずくで押さえ込まれていたのだ。

「九郎助なら、下手なドジは踏まねぇだろうが・・・・・・」

 どうしたもんか、と千之助は考える。
 小菊を取り戻したのなら、今一番危ない場所にいるのは小太である。
 まさに用済みだ。

「確実な物証も掴んじゃいねぇが。どっちにしろ、物証なんぞ、簡単に掴めるもんでもねぇか。もう強引に、見世を襲うしかねぇな」

 そう言って、千之助は顔を上げた。

「ん? 杉成はどうした?」

 店のことに一番慣れている杉成の姿が見あたらない。
 店がぐちゃぐちゃになれば、とりあえず掃除をしに出てきそうなものだが。

「ああ、あの童子なら、おさんに蹴飛ばされたお陰で、壊れてしまった」

 牙呪丸が、ひょいと土間の隅を指差す。
 隅の暗がりに、壊れた人形が落ちていた。
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