始末屋 妖幻堂
「二階にいる遊女たちにゃ、眠って貰っておいたほうがいいか・・・・・・」

 階段を見上げ、懐に入れた千之助の手を、肩の上の狐姫が、そっと咥えて止めた。

『駄目だよ。万が一火事になったら、皆焼け死んじまう。九郎様がいてるんだろ?』

 あ、と千之助も手を止める。
 確かに狐姫の言うとおりだ。
 九郎助狐は火伏せの神性。
 暴れれば、火事になる可能性が高い。

「・・・・・・そう・・・・・・さな。心許ねぇが、結界だけか」

 いくら結界を張ったとしても、力あるモノが何人もいれば、破れる可能性だってあるのだ。

「大丈夫だよ。裏見世は、地下だもの。いつも結構なことしてるけど、表までは漏れないよ。そりゃそうだろ、悲鳴なんかが四六時中聞こえてちゃ、さすがにヤバい」

 牙呪丸に抱き上げられた呶々女が言う。
 そのまま呶々女は、牙呪丸を促して廊下を進み出した。

「違いねぇ。そんじゃ一応、下に降りる気のなくなる程度の結界を張っておくか」

 千之助は手早く指で印を切り、とん、と階段の柱に手を付いた。

「よし。ところで呶々女。お前さん、裏見世に行かされたのか?」

 廊下を走りながら、千之助は牙呪丸の肩に、肩車の要領で乗っかっている呶々女に問うた。
 確か裏の入り口は、素人にはわからない、と言っていた。
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