始末屋 妖幻堂
 震える楼主に、おさんは、くくっと口の中で笑う。

「ねぇ千の旦那。多分さっき旦那が言った‘あへん’てやつは、こいつが私に、遊女らの香に混ぜるよう渡した粉のことだね。それなら面倒臭いから、全部こいつの部屋の香炉に放り込んでやったさ」

 ぴく、と楼主の顔が引き攣る。

「何かわかんなかったけど、毒だとしても、そんなもので遊女たちを殺す片棒を担ぐなんてご免だし。私は色恋のごたごた以外にゃ、興味ないからね」

 むしろ遊女たちは健康で、色恋に励んでくれないと困るのだ。
 遊女を壊すようなことをすれば、己の楽しみがなくなる。

「な、何てことを・・・・・・! わ、わしの・・・・・・わしに阿片を・・・・・・!」

「私は男は好きだけど、私の楽しみを潰すような男は嫌いなんだ」

 けけけっと笑うおさんの肩を、千之助は、ぽんと叩いた。

「でかしたぜ。やるじゃねぇか」

 元々妖怪というものは、己の機嫌を損ねるようなことをするモノには、容赦ないものだ。
 千之助は、おさんの手を引っ張りながら、己の足を掴む楼主を振り払った。

「ま、人にしたことは、己に返ってくるもんだ。因果応報ってやつだな。罰は下ったようだから、ま、ここではこれ以上手出しはしねぇ。後はてめぇで逃げ出すこったな」

 にやりと笑い、楼主をその場に置き去りに、千之助はおさんと上に向かった。
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