始末屋 妖幻堂
「旦那は・・・・・・裏の遊女を運び出すのを手伝ってくれるかい」
火事だと叫びながら各部屋を開けて回るおさんが、千之助に廊下の先を指して言った。
「ちょっと前に、遊女が大怪我してね。立つこともままならないのさ」
言いながら、先に立って廊下を走る。
部屋部屋からは、慌てた遊女らが飛び出してくる。
まだ炎は上がってきていないが、煙がもうもうと立ち込めてきているので、皆周りになど構っていない。
千之助のことを、気に留める者もない。
行商で付き合いのある者もいるが、煙に紛れていれば、まず見つかることはないだろう。
「皆、火事だよ。逃げな」
おさんが一つの大部屋の襖を引き開けた。
そこには五人の遊女がい、皆が一斉におさんを見た。
「何? 火事?」
一人の遊女が呟く。
他の部屋では、火事だと聞くなり、驚いて腰を浮かせたものだが、この部屋の遊女は、特に急ぐ素振りも見せず、そのまま座ったままだ。
「ほら、急がないと」
おさんが急かすが、遊女は、ふ、と笑みを浮かべただけで、窓辺に寄りかかった。
「逃げてどうなるってんだい。どうせこの苦界からは、逃れられないんだ。またここで裏要員として生きるぐらいなら、このまま死んだほうがマシさ」
皆が皆、疲れたようにその場に座っている。
一人だけ布団に寝そべっている遊女が、おさんの言っていた、怪我した遊女だろう。
火事だと叫びながら各部屋を開けて回るおさんが、千之助に廊下の先を指して言った。
「ちょっと前に、遊女が大怪我してね。立つこともままならないのさ」
言いながら、先に立って廊下を走る。
部屋部屋からは、慌てた遊女らが飛び出してくる。
まだ炎は上がってきていないが、煙がもうもうと立ち込めてきているので、皆周りになど構っていない。
千之助のことを、気に留める者もない。
行商で付き合いのある者もいるが、煙に紛れていれば、まず見つかることはないだろう。
「皆、火事だよ。逃げな」
おさんが一つの大部屋の襖を引き開けた。
そこには五人の遊女がい、皆が一斉におさんを見た。
「何? 火事?」
一人の遊女が呟く。
他の部屋では、火事だと聞くなり、驚いて腰を浮かせたものだが、この部屋の遊女は、特に急ぐ素振りも見せず、そのまま座ったままだ。
「ほら、急がないと」
おさんが急かすが、遊女は、ふ、と笑みを浮かべただけで、窓辺に寄りかかった。
「逃げてどうなるってんだい。どうせこの苦界からは、逃れられないんだ。またここで裏要員として生きるぐらいなら、このまま死んだほうがマシさ」
皆が皆、疲れたようにその場に座っている。
一人だけ布団に寝そべっている遊女が、おさんの言っていた、怪我した遊女だろう。