始末屋 妖幻堂
 さらりとおかしくない程度にした千之助の説明を、遊女らは呆気に取られた感じで聞いていた。
 千之助が行商に来るのは普通のことだが、何故一介の小間物屋が、このさして小さくもなく、まして無頼のヤクザ者を大勢使っているような廓を潰すことができるのか。
 いくらおかしくないように説明しても、やはり後半は違和感が否めない。

「おさんも言ったろ。ここは、もう潰れた。後のことは気にするな。さ、とにかく逃げるぜ」

 怪我人の遊女を抱き上げ、千之助は部屋を出た。
 廊下はすでに、煙が充満している。
 部屋にいた残りの遊女らも、皆千之助の後についてきた。

「うっぷ。ああ、しまった。火元は地下だったな。こらぁ一階は火の海だなぁ」

 階下に下りる階段の上まで来、千之助はため息をついた。
 階段の上から見る一階は、立ち込める煙で見えないが、時折爆ぜる火の粉の状態で、かなり激しく燃えているのが察せられる。

「狐姫・・・・・・」

 思わず千之助は、狐姫の身を案じた。
 が、その呟きを、不意にすぐ後ろから鼻で笑い飛ばされる。

「ははっ。何だい、旦那。あんな女狐のことが心配かい? 一体何十年と一緒にいるんだよ。いい加減、飽き飽きだろ? さっさと新しい女を捜しなよ」

 振り向けば、おさんが腕組みして立っている。
< 352 / 475 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop