始末屋 妖幻堂
「どうしてもかい?」

「どうしてもだ」

 きっぱりと言う。
 桔梗は一瞬涙を堪えるように唇を引き結んだが、すぐに脱力したように、はあぁ、と息をついた。

「あ~あ。こうも見事に振られちまうとはね。裏要員とはいえ、結構お客受けは良かったのにさ。自信なくしちまう」

 わざと明るく言い、桔梗は姿勢を崩した。
 ぽりぽりと頭を掻く。

「どうしよっかな。旦那さんの元にいれなくても、あちきはやっぱ、あんな山奥は嫌だなぁ。家族もいないしさ。あんたらだって、家族の元に帰ったって、またすぐに、どこぞへ働きに出ないといけないだろ?」

 桔梗は元々、山奥で燻っているのは我慢できない性質のようだ。
 一度都の華やかさに慣れてしまうと、家族もいない者は、あまり帰りたいと思わないのだろう。
 下働きばかり、というのも、あまり好きではなかったのなら余計だ。

「あちきらは帰るよ。家族に会いたいし。あんまり帰らなかったら、心配するだろうしねぇ」

 小菫が、少し申し訳なさそうに言う。
 いいよ、と桔梗は笑い、芙蓉を見た。

「あんたは? 長の家に帰るかい?」

「桔梗、ほんとに帰らないのかい?」

 桔梗の質問を、芙蓉は質問で返した。
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