始末屋 妖幻堂
「そもそもお前さんらは、騙されて廓に売られたクチだ。借金なんざ、元々ありゃしねぇが、そんなことまで世間の奴らはわからねぇ。伯狸楼の裏見世っての自体が、公にはなってねぇ見世だからな」

「そんな。だったらあちきは、都じゃ働き口がないってのかい?」

「・・・・・・伯狸楼にいたってのが、一番厄介だな」

 裏見世の実態を知らなくても、あそこがヤバい廓だというのは有名だ。
 男衆も他の廓に比べて柄が悪い。
 そのようなところ出身の女を雇って、いかにもなヤクザ者がいちゃモン付けに来ても困る。

 実際は伯狸楼の主だった亡八や男衆は始末したので、そのようなことはないはずだが。

「う~ん、同じ花街には、受け皿はあるだろうがな」

 ずっと伯狸楼と同じ花街で廓を経営してきた者なら、伯狸楼が潰れたことも、亡八が亡くなったことも知っていよう。
 現に伯狸楼の表の遊女らは、助けられた廓に厄介になっている。

「口入れ屋を通しても、まず花街に戻ることになるだろうなぁ」

 言いつつ、千之助は唇から紫煙を吐き出した。

「お前さんは、花街には戻りたくねぇのかい? もう伯狸楼はねぇし、あそこの奴に追われることもあるまいよ。伯狸楼ほど非道な扱いをする廓も、そうあるもんじゃねぇしな」

 すっかり花街に馴染んでしまっている桔梗などは、花街で暮らしたほうが楽なのではないかと思うのだが。
 身についた言葉遣いを改めるのは、難しかろう。
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