始末屋 妖幻堂
「さて」

 元の座敷に戻り、千之助は再び小菊の前に座った。
 狐姫が千之助の後ろの長火鉢に置いていた煙管を取り、火を付ける。

「家の僅かな畑仕事も、ろくに手伝わなかった佐吉だ。それがどういうわけか、お前さんの仕事は率先して手伝うようになった。お前さんの気を惹きたいっつぅ、まぁ言ってみれば子供じみた考えからだな」

 小菊の表情に変化はない。
 千之助は、独り言のように続ける。

「そうこうしているうちに、お前さんの家から病人が出るようになった。お前さんの家・・・・・・まぁつまりは長の家だが、長の家で働いていた者らは、元々家のないような者か、外れから来た者か。ああ、遠い村から来てる奴もいたな。とにかく帰せるものは帰したが、あまりに家の遠い者とか家のない者とかは、どうすることもできない。家においておく余裕もない。困っていたところに、佐吉が療養所のようなものを提供すると言ってきた。村から外れた山の中に建てた小屋に、皆を集めたんだ」

「・・・・・・」

「今まで散々いい加減なことをしてきて、家族にも勘当されていたような佐吉だが、引き取った者らは、ちゃんと面倒を見てやったようだ。元気になったら、麓の口入れ屋に頼んで、どこぞで仕事を紹介してやった。当然亡くなる者もあったがな、そいつらは、佐吉がちゃんと葬ってやった。お前さんは、そんな佐吉の手伝いに、たびたび小屋に足を運んだ」

 小菊が少し、顔をしかめて頭を押さえた。
 再び千之助は、そっと小菊の肩に手を置く。
< 400 / 475 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop