始末屋 妖幻堂
「けど所詮佐吉も、田舎の鄙男だ。そう悪い奴のいねぇ平和な村で育った奴に、都の場慣れた博徒なんぞ見抜けねぇ。佐吉が頼った奴は、お前さんをとっ捕まえた、伯狸楼の・・・・・・」

「あああああっ!」

 いきなり小菊が、悲鳴を上げた。

「いやああぁっ!」

 千之助の手を振り払って、小菊は部屋の隅まで這いずった。
 隅で小さくなり、がたがたと震える。

「・・・・・・伯狸楼って名ぁが駄目か」

 ぼそ、と千之助が呟く。
 でもここを避けては通れない。

「なぁ小菊。辛ぇだろうが、堪えてくれや。ここは伯狸楼でもねぇし、俺はお前さんを、どうこうするつもりはねぇ。ここにいれば安心だ。何も怖いことぁねぇよ」

 震え続ける小菊に言い、千之助は手妻のように出した香炉に、長火鉢の中から種火を落とした。
 長火鉢の引き出しを開け、小さな練り香を一つ落とす。
 緩やかに、良い匂いが部屋に漂った。

 しばらく小菊を眺め、ようやく身体の震えが小さくなったのを見計らうと、千之助は、つ、と小菊の傍に寄った。

「さっきも言ったがな、伯狸楼は、ぶっ潰したぜ。もうない」

 ゆっくりと、静かに言う。
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