始末屋 妖幻堂
 狐姫と千之助のやり取りを見ていた小菊は、少し不安そうな顔になった。

「あの、もしかして旦那様。酷いお怪我をしたのでは・・・・・・」

「何、大したこっちゃねぇよ。でも俺っちは、元々上役の手の平で踊る猿だからな。ちょっとでも意に添わねぇ言動すると、たちまち腹の傷が、ぱっくりなのさ」

 さらっとした説明を聞いても、小菊には何のことやらわからない。
 怪訝な顔をする小菊に、千之助は、にやりと笑いかけた。

「俺っちのことは、心配せんでもいい。それよりお前さんのことだよ。どうだい? 何か、思い出したかい?」

「あ・・・・・・」

 は、と小菊は顔を上げた。
 すかさず千之助は、小菊の思考を伯狸楼以前へと誘導する。

「尾鳴村のこととか、冴のこととか、ちらっとでも覚えてるか?」

 しばらく小菊は、首を傾げて考えていた。

「言われてみれば・・・・・・何となく、覚えているような。でも、何だか霞みがかかってて・・・・・・」

 呟くように言う小菊の目から、涙がこぼれた。
 あれ、と千之助は思ったが、泣いている小菊自身も、何故涙がでるのかわからないように、少し驚いた顔をした。
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