始末屋 妖幻堂
 ふん、と鼻を鳴らし、それでも茶碗に口を付ける狐姫に、牙呪丸が少し訝しげな目を向ける。

「妙なものを食らうのじゃな。そんなもの、味も何もなかろうに」

「反吐が出そうなほど甘いものしか食わないくせに、人の食い物にけち付けるんじゃないよ。呶々女の厚意を馬鹿にしてるって、わかってんのかい?」

 つん、と言う狐姫の、その後半部分に、牙呪丸は激しく反応した。
 傍の呶々女を、がばっと振り返る。
 その牙呪丸を見ただけで、呶々女はまた、慌てたようにわたわたと両手をばたつかせた。

「がっ牙呪丸っ! 気にしないでいいよ! そんなことないから! 牙呪丸は甘いものが好きだものねっ。甘くもない天かすなんて、牙呪丸が好んで食べるわけないことぐらい、重々承知してるからっ」

「すまぬ。呶々女の気持ちを踏みにじったわけではないのだ」

 傍目にも明らかなほど、牙呪丸は、しょぼんと項垂れる。
 いつでも無表情な牙呪丸が、ここまで感情を露わにするのは、極めて珍しい。
 もっとも呶々女の前では、いつものことなのかもしれないが。

「わかってるよ。ほら、牙呪丸も、あんま姐さんを傷つけるんじゃないよ。牙呪丸だって、あたしが他の奴とばっかり一緒にいたら嫌だろ?」

 よしよし、と、呶々女は牙呪丸の頭を撫でる。
 今の千之助の状況と、呶々女の例えでは、軽さが全然違うのだが。

 しかも呶々女は、例えの相手を『男』と限定しているわけではない。
 しかし牙呪丸にとっては、男だろうが女だろうが同じことなのだ。
 大きく頷く。
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