始末屋 妖幻堂
「そうか、そうじゃな。うむ、まぁそう考えれば、太夫の気持ちも、わからんでもない」
狐姫は、少し胡乱な瞳で牙呪丸を眺めている。
そんな例えで納得してもらっても、狐姫的には微妙だ。
が、色恋や性的な感情がないに等しい妖(あやかし)には、言ったところで理解できないだろう。
狐姫は気持ちを落ち着かせるべく、手の中の茶碗を口に運んだ。
できるだけ稲荷に近づけようという心配りだろう、湯には少しだけ醤油と甘味が垂らしてあるようだ。
ほのかに甘辛い味に、狐姫は、ふ、と和んだ。
「・・・・・・そろそろ夜が明ける。呶々女、ありがとう」
茶碗を置いて、狐姫が立ち上がる。
呶々女が、少し気遣わしげな目を向けた。
「そんな目で見るんじゃないよ。あんたのお陰で、ちょっと気が紛れたし」
ぽん、と呶々女の頭を叩き、牙呪丸にも視線を送る。
「あんたもね。ようやっと心置きなく呶々女と一緒にいられるようになったのに、邪魔したね」
一応牙呪丸にも礼を言う狐姫に、牙呪丸は饅頭を手にしながら、珍しく少し考えつつ口を開く。
「全くじゃ・・・・・・とはいえ、まぁお主が転がり込めるのは、ここぐらいじゃろうしの。仕方あるまい」
これまた極めて珍しく、譲歩の姿勢を見せる。
ふ、と狐姫は、鼻を鳴らした。
「じゃ、帰るよ」
くるり、と地を蹴って宙返りし、狐姫は狐の姿になった。
「姐さん。大丈夫なんかい?」
『ああ。嫌だけど、仕方ないものね』
なおも心配顔の呶々女に言うと、狐姫は窓から屋根伝いに、六条のほうへと駆け去った。
狐姫は、少し胡乱な瞳で牙呪丸を眺めている。
そんな例えで納得してもらっても、狐姫的には微妙だ。
が、色恋や性的な感情がないに等しい妖(あやかし)には、言ったところで理解できないだろう。
狐姫は気持ちを落ち着かせるべく、手の中の茶碗を口に運んだ。
できるだけ稲荷に近づけようという心配りだろう、湯には少しだけ醤油と甘味が垂らしてあるようだ。
ほのかに甘辛い味に、狐姫は、ふ、と和んだ。
「・・・・・・そろそろ夜が明ける。呶々女、ありがとう」
茶碗を置いて、狐姫が立ち上がる。
呶々女が、少し気遣わしげな目を向けた。
「そんな目で見るんじゃないよ。あんたのお陰で、ちょっと気が紛れたし」
ぽん、と呶々女の頭を叩き、牙呪丸にも視線を送る。
「あんたもね。ようやっと心置きなく呶々女と一緒にいられるようになったのに、邪魔したね」
一応牙呪丸にも礼を言う狐姫に、牙呪丸は饅頭を手にしながら、珍しく少し考えつつ口を開く。
「全くじゃ・・・・・・とはいえ、まぁお主が転がり込めるのは、ここぐらいじゃろうしの。仕方あるまい」
これまた極めて珍しく、譲歩の姿勢を見せる。
ふ、と狐姫は、鼻を鳴らした。
「じゃ、帰るよ」
くるり、と地を蹴って宙返りし、狐姫は狐の姿になった。
「姐さん。大丈夫なんかい?」
『ああ。嫌だけど、仕方ないものね』
なおも心配顔の呶々女に言うと、狐姫は窓から屋根伝いに、六条のほうへと駆け去った。