始末屋 妖幻堂
『小菊は?』

 間が持たず、狐姫は視線を階段にやる。
 まだ夜明けだ。
 この店だけでなく、町もまだ静まり返っている。
 眠っているのだろうが、それは、どこで---?

 きり、と狐姫は、奥歯を噛みしめる。
 千之助は、そっと、そんな狐姫の身体を撫でた。

「なぁ狐姫」

 ややあってから、千之助が口を開いた。
 かつん、と小さく煙管を火鉢に打ち付ける。

「人型になってくんな」

 千之助の膝に顎を乗せていた狐姫は、顔を上げた。
 そろそろ小菊が起きるからだろうか?

 しばらくじっと見つめ合った後、狐姫は、ふわ、と太夫の姿になった。

 その妖しく美しい姿を眺めていた千之助は、不意に、つ、と手を差し伸べた。
 狐姫がその手を取ると、己のほうに引き寄せ、もう片方の手を腰に回した。

「もう帰ってこねぇかと思ったぜ」
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