始末屋 妖幻堂
「ちょっと人様にゃ、見せられねぇほどの傷だ」

 千之助の言葉に、佐吉の視線はまた小菊に戻る。
 じっと小菊を見、佐吉は少し安心したように笑った。

「でも、とにかく清が無事で良かった。必死で探し回った甲斐があったってなもんだ」

 ほぅ、と千之助は、少しだけ目を見開いて佐吉を見た。
 どうやら後は佐吉に任せても大丈夫そうだ。
 千之助は、隅に置いてあった行商用の行李を引き寄せた。

「ほんじゃあ俺っちは、仕事がてら、小太の野郎の取り立てに行ってくるからよ。狐姫も、堀川にでも行ってきな」

「ええ?」

 焦る小菊の頭に、ぽん、と手を置き、千之助は行李を担いで土間に降りた。

「堀川かぁ。今朝行ったばっかだから、牙呪丸にまた嫌味を言われそうだなぁ」

 ぽりぽりと簪で鬢を掻きながら、狐姫も腰を浮かす。

「そうか。じゃあ、そうさな。九郎助のとこにでも行ってきな。ああそうだ。礼しねぇとな。狐姫、一緒に清水にでも行くか」

 ぱ、と狐姫の顔が輝く。
 いそいそと狐姫も、下駄に足を突っ込んだ。
 今でこそ人型を取っているが、外に出た瞬間に狐の姿に戻るので、履き物など特に必要ないのだが。

 とりあえず佐吉がいるので、ヒトらしく振る舞っただけだろう。
 太夫の格好のまま出歩くこと自体がおかしいのだが。

「じゃあな。俺っちらぁは、夕方まで帰らんからよ。佐吉の世話頼んだぜ。薬はそっちに作ってあらぁ。あ、店は閉めておいていいぜ。杉成もいねぇしな」

「だ、旦那様っ・・・・・・」

 おろおろと腰を浮かす小菊に笑いかけ、千之助はひらひらと手を振ると、狐姫を連れて出て行った。
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