始末屋 妖幻堂
「・・・・・・あのお人は、一体どういう人なんだ? お前、見世にゃ出てなかったんだよな? ということは、お前の馴染み客でもねぇよな・・・・・・」

 考えつつ、慎重に佐吉が口を開いた。

「旦那様は、この小間物屋の主人で・・・・・・。佐吉さんが、あたしを逃がしてくれたときに手引きしてくれた人の、知り合いです」

「手引き?」

 佐吉が少し訝しげな顔をする。
 八百屋で佐吉が男衆の気を引いたとき、特に誰に協力を仰いだわけでもない。
 てっきり小菊が一人でどこぞに逃げたものだと思っていた。

 だがそれは、ちょっと考えれば、あり得ないことだ。
 この京に、知り合いもいない女子一人が逃げ出したところで、廓の男衆から逃げ切れるものではないのだ。

「そうか・・・・・・。小間物屋の主人・・・・・・にしちゃ・・・・・・」

 不思議なお人だ、と呟き、ぐるりと周りを見渡す。
 確かにここは、何の変哲もない小さな店だ。

「そういや、さっきの遊女も、お前と一緒の廓にでも、いた人なのかい?」

「遊女?」

 首を傾げる小菊に、佐吉は、ひょい、と隣の部屋の、千之助らがいた長火鉢の辺りを指した。

「狐姫姐さんですか。あのかたは、旦那様の、いい人で・・・・・・」

 言いながら、小菊は少し考えた。
 狐姫は狐だ。
 いい『人』ではないな、と、どうでもいいことを思い、思わず小菊は吹きだした。

 佐吉が、少し驚いた顔で小菊を見る。
 そして、ふ、と表情を和らげた。
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