始末屋 妖幻堂
「佐吉さん・・・・・・。あたし、身体に傷があるんです」

 自分でも驚くほど自然に、小菊はそれを口にした。

「そんなこと、さっき聞いた。それに、そうなんだろうとは思ってたって言ったろ? ある程度のことは、覚悟してるさ」

 言い募る佐吉の胸を押し、身体を離した小菊は、己の襟に手をかけた。
 俯いたまま、呟くように言う。

「きっと、佐吉さんが思ってるより、ずっと酷い・・・・・・。見るに堪えないほどの傷なんです」

 襟を開こうとするが、手が震えて言うことを聞かない。
 千之助のときは、こんなことはなかった。
 やはり、誰より佐吉に見られることは辛いのだ。

 襟にかけた手に、ぽたりと涙が落ちた。

「清・・・・・・」

 佐吉が、そっと小菊の頭に手を置いた。
 そしていきなり、がしがしと手荒く頭を撫でる。

 手荒すぎて、小菊の頭はあっという間にぐちゃぐちゃになった。
 驚く小菊に、佐吉は、にやりと笑う。

「見くびるなぃ。自慢じゃねぇし、あんまりお前にこんなことは言いたかねぇが、俺は結構遊んできたんだぜ。でも金もそうねぇから、ちゃんとした遊郭なんぞには行けねぇ。村の麓の岡場所や夜鷹とかなんかだったら、身体中傷だらけとか、珍しくもねぇ」
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