始末屋 妖幻堂
---何年経っても、大して変わらねぇな、この町は---

 ふ、と唇から紫煙を吐き出す。
 目の前に広がった煙の中に、いろいろな場面が浮かんでは消える。

 鎧姿で弓を引く武者。
 炎に包まれる屋敷。
 遠く、配流先に流されていく人々。

 ぐ、と煙管を握る。
 同時に、自嘲気味な笑みが、口元に浮かんだ。

---昔は弓で鳴らしたこの俺が、今は常に持つのがこんなものか---

 そっと下腹部に手を当てる。
 あのまま死んでいたら、今頃は生まれ変わって、新たな生を満喫していただろうか。
 少しだけそう思い、だがまた、そんな思いを笑い飛ばす。

---普通に死んでたら、狐姫にゃ会えなかったな。何の力もなきゃ、俺だってあいつの客と同様、骨の髄までしゃぶられてお陀仏か---

 狐姫になら、食い尽くされてもいいかな、などと思いながら、千之助は、よっこらせ、と身体を起こし、伸びをした。

「さて。また清水に寄って、狐姫の好物を買って帰るかね」

 独りごちて、千之助は行李を背負い、歩き出す。

 今は、やっとでかい仕事が終わったところだ。
 だが厄介事というものは、いつの世も尽きることはない。
 そのうち、また何か問題を抱えた者が、妖幻堂の敷居をまたぐだろう。

「ヒトってのぁ、厄介な生き物だからなぁ」

 ふふ、と笑いながら、千之助は軽い足取りで歩いていった。




*****終わり*****

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