始末屋 妖幻堂
第五章
早暁、まだ夜も明けきらないうちから、千之助は小間物屋を後にした。
同時に狐姫も、一陣の風になって堀川のほうへと消え去る。
千之助は信州へ、狐姫は菓子処へ。
堀川に辿り着き、菓子処の屋根伝いに歩いていた狐姫は、屋根の一点で立ち止まった。
今は狐の姿である。
前足で器用に瓦を一つ外すと、するりと中に入る。
暗い部屋の中に降り立つと共に、狐姫は元の太夫の姿になった。
「牙呪丸。久しいのぅ」
がらんとした部屋の真ん中でとぐろを巻いていた牙呪丸が、ちらりと狐姫に目を向ける。
とぐろを巻く、というのは、物の例えではない。
その言葉の通り、牙呪丸の下半身は大蛇になって、とぐろを巻いているのだ。
「太夫か。呶々女の使いか? 呶々女はいつまで廓に囲われないといかんのだ。あまり長くいると、客を取らされてしまうではないか」
同時に狐姫も、一陣の風になって堀川のほうへと消え去る。
千之助は信州へ、狐姫は菓子処へ。
堀川に辿り着き、菓子処の屋根伝いに歩いていた狐姫は、屋根の一点で立ち止まった。
今は狐の姿である。
前足で器用に瓦を一つ外すと、するりと中に入る。
暗い部屋の中に降り立つと共に、狐姫は元の太夫の姿になった。
「牙呪丸。久しいのぅ」
がらんとした部屋の真ん中でとぐろを巻いていた牙呪丸が、ちらりと狐姫に目を向ける。
とぐろを巻く、というのは、物の例えではない。
その言葉の通り、牙呪丸の下半身は大蛇になって、とぐろを巻いているのだ。
「太夫か。呶々女の使いか? 呶々女はいつまで廓に囲われないといかんのだ。あまり長くいると、客を取らされてしまうではないか」