始末屋 妖幻堂
---ただそれが、小菊だって確証が得られるか、だな---

 考えているうちに、何となく辺りが蒸し暑くなっているのに気づいた。
 同時に、硫黄の臭いもきつくなる。

「こっちだよ」

 娘が、岩場を降りていく。
 もうこの辺りから温泉が湧いているようだ。
 岩場は濡れて、滑りやすくなっている。

「濡れてるから、気ぃつけて。滑るし・・・・・・って、うわっ!」

 先に立っていた娘が、足を滑らせたようだ。
 咄嗟に千之助は、手を伸ばして娘の腕を掴んだ。

「ああ・・・・・・ありがとう。危ないんだよね、ここ。温泉は良いんだけどさ」

 千之助にくっついたまま、娘は再びそろそろと岩場を降りる。
 娘が体勢を立て直した時点で、千之助は手を離したのだが、すかさず娘がしがみついてきたのだ。
 都男に惚れるというのは、田舎娘にはよくあることだ。

---若い男がいねぇわけでもあるまいに---

 少々呆れながら、千之助は腕に娘をぶら下げて、岩場を下った。
< 64 / 475 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop