始末屋 妖幻堂
「ほらっ。背中流してやるからさ」

---言い方といい、立ち振る舞いといい、全く色気ってものを感じねぇな。鄙そのものじゃねぇか---

 抵抗する気も起こらず、千之助はのろのろと湯から上がって、岩縁に腰を下ろした。
 娘がいそいそと、千之助の背中に湯をかける。

「さすが、都のお人は肌が違うよねぇ」

「そうかい? おめぇさんのほうが、無垢な分綺麗だろうさ」

 千之助は、さらっと流したつもりだが、娘のほうは、そうは取らなかったらしい。
 気の昂ぶりが、背中に当たる手から伝わる。

「なぁ。あんたの家は、随分でかかったな。あんたぁ、もしかしてこの村の長の娘か」

 これ以上娘を興奮させても厄介だ。
 気を紛らわせる目的もあり、千之助は軽く調査を開始した。

「うん。あたしん家は、代々この尾鳴村の長なんだ。あっ名乗ってなかったね。あたしは冴(さえ)ってんだ。村長(むらおさ)の長女だよ」

「俺ぁ千之助ってんだ。都で小間物屋をやっている」

「へぇっ。だからどっか雅てるんだね。いろんなきらきらしいもの扱ってるんだろ?」
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