始末屋 妖幻堂
 背を向けているのを幸い、千之助は密かに口角を上げた。

 きらきらしいどころか、どちらかというと、店のモノは禍々しい。
 その主たる千之助自身が『雅てる』とは。

「ね、小間物って、どんなモンだい? ここいらじゃお目にかかれないような、綺麗な簪とかがあるんだろうねぇ」

 興味津々といった風に、冴は千之助の肩越しに身を乗り出す。
 おかげで背中に柔らかな感触のモノが当たるのだが、それとてやはり、千之助の心には、小波一つ起こさない。
 冴が狙ってやっているのだとしたら、随分失礼な態度だろう。

 が、千之助は背を向けているので、冴からしたら、彼は必死で我慢しているのだとも取れるのだ。
 何せ、表情が見えないのだから。

「ねぇ千さん。屋敷に帰ってから、もっとお話、聞かせておくれよ」

 意味ありげに冴が言う。
 こういう言い回しは、『寝物語に聞かせて欲しい』という意味だ。
 夜這いの誘いである。

 千之助は、ひょいと地を蹴ると、どぼんと再び湯に身を沈めた。

「ま、ご厄介になるわけだし、俺っちなんぞの話で良ければ、何なりと」

「ふふっ。楽しみにしてるよ」

 途端に艶めいた笑みを浮かべ、冴も湯に身を沈めた。
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